My favorite Three Kingdoms

三国志に特化したコラムをやりたいという思いから開設しました。演義や正史に拘らず楽しみながらやっていきます。

【連載22】社長に嫌われたらお終い

曹操に仕えていた人物に、楊修(ようしゅう)という文官がいました。彼はとても頭の良い人物で、その才能を曹操に気に入られて採用されました。ところが、頭の回転が早過ぎるというのは良くないのか、あまり場の空気が読めない人なのか、そもそも彼の性格なのかはわかりませんが、その楊修という人物は、曹操が意図する事を自分の解釈で先読みしては勝手に部下に指示を出して、自らの才能をアピールするきらいがありました。

もちろん本人には悪気は無く、組織の為を思ってしていた事だとは思います。しかし曹操にとっては常に腹の中を探られているようで心中穏やかではないようでした。

西暦219年、曹操は定軍山(ていぐんざん)の戦いで劉備と争っていましたが苦戦を強いられていました。かつては曹操にとって劉備という人物は、全く足元にも及ばない虫けら同然のような存在でしたが、劉備諸葛孔明という人物を得てからはグングンと勢力を伸ばしていき、次第に曹操に迫ってきていたのです。曹操はとても悩んでいました。

劉備の奴め…この俺様に刃向かいやがって!」食事中もずっと戦況の事が頭の中から離れません。そんな時、部下が曹操の側へやってきました。「殿、本日の伝令を聞きに参りました。宜しくお願い致します。」

すると曹操は食事をしながらボンヤリとこう呟いたのです。「鶏肋鶏肋…(けいろく、けいろく)」

部下は何の事だか訳がわかりませんでしたが、全軍にこの伝令を伝えなければいけません。「皆の者、鶏肋だ!鶏肋だ!僕にはさっぱり意味がわからないけど鶏肋だ!」

その伝令を聞いた楊修は一瞬戸惑いましたが、やがてなるほどと頷くと「直ちに撤退の準備をせよ!殿は劉備との戦を取りやめて撤退を考えておられるのだ。」と言い、自らも撤退の準備を始めました。周囲の人が不思議に思い、何故そのように考えるのかと楊修に尋ねたところ、「鶏肋とは鶏がら、つまり鶏の肋骨である。鶏の肋骨の周りには僅かに肉が付いていて、それをシャブって食べるとそれなりに美味しいのだが、それでは腹は満たされない。鶏肋は捨てるにはもったいないが、かと言ってそれを食べたところで大したこともない。つまり、この劉備との争いに勝てないのは惜しいが、無理に争いを続けて勝ったところで大したこともない。だから劣勢の今が撤退の潮時という事なのである。」と持論を展開しました。

その説得力のある解釈に部下達も感心し、全軍が撤退の準備を始めたのです。

曹操が食事を済ませて書物を読んていると、周囲が騒がしくなってきたので不審に思い、曹操は側近の者に尋ねました。「一体何事だ??」「撤退の準備を始めております。殿が全軍にそのように伝令を出したのでは?」「は??俺はそんな伝令を出した覚えはないぞ!誰だ!そのような流言を流した者は!」「どうやら楊修との事でございます。」「あいつはいつも俺の意図を汲みとっているようなつもりになっておるが、実際は何もわかっておらん!流言を流して全軍の士気を乱したとして、あの者を捕らえて斬れ!!」曹操は日頃から楊修に対しての不信感が積もっていた事もあり、ついに楊修を処刑してしまいました。

また他にも曹操には、荀彧(じゅんいく)という優秀な軍師がついていました。彼もその才能を曹操から気に入られて仕えていましたが、やがて方向性の違いから異議を唱えるようになり、最後には曹操によって自殺に追い込まれたと言われています。

楊修と荀彧という、才能に恵まれて非常に優秀だったはずの人物が、何故このような結末を迎える事になってしまったのか。

この二人に共通して言えるのは、組織のトップから煙たがられてしまったという事です。

 

うちの会社でも、社長に気に入られるように振る舞う事を上司から要求されます。

業務上の事ならまだわかるのですが、以前は上司から「有給休暇や残業代を申請すれば社長からの印象が悪くなるから控えろ!」と取り下げられた事がありました。今では社長も考えを改めてくれたので、そのような事はありませんが、会社員は社長の考えが絶対なのです。

『嫌われる勇気』という本がありますが(私は読んでいません)これは社長に対しては例外なのです。たとえ部下・同僚・上司に嫌われたとしても、社長にさえ好かれていればやっていけるのが組織なのです。逆に言えば、会社員は社長に嫌われたらお終いと言っても過言ではありません。

三国志のエピソードにもありますように、たとえ優秀な人物でも相性が合わずに社長に嫌われたらお終いなのです。その時は、理不尽な目に遭う前に転職という選択肢も視野に入れておく必要があるように思います。